【連載 第1回】広告の枠を超えた、新たな挑戦 〜 加速するDX支援の現状

株式会社cross-Xの古嶋です。

2023年2月現在、株式会社サイバーエージェント様のインターネット広告事業本部の皆さまとビジネスでご一緒しています。その中で、インターネット広告事業本部様がどのように「DX」を推進しているのか、その組織の強さはどこにあるのか、対談形式で迫っていきます。

今回は、 インターネット広告事業本部 営業統括の鈴木様とデータ維新局 局長の會澤様と対談をさせていただきました。非常に中身の濃い内容となったため、全3回にわたる連載でお届けします。

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【Profile】

株式会社サイバーエージェント
インターネット広告事業本部
統括 鈴木 慶司 様

株式会社サイバーエージェント
マーケティング事業本部 データ維新局
局長 / エグゼクティブコンサルタント 
會澤 佑介 様

株式会社cross-X
代表取締役 古嶋 十潤

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「新領域」における支援が加速した1年

古嶋:昨年2022年を振り返って、インターネット広告事業本部としてはどのような1年でしたか?

CA鈴木:これまでのサイバーエージェントは広告代理店として成長を続けてきましたが、その事業のドライバーは広告の効果の最大化で、効果を最大化させるための運用に注力してきました。そこを突き詰めてきたからこそ、デジタル広告業界においてトップクラスのポジションを獲得できたと考えています。

ですが、これから私達に求められるのはクライアントの広告効果を最大化させるだけでなく、クライアントの「収益」、つまり経営や事業をいかにして伸ばすことに貢献できるかということだと考えています。

最近だと、広告という枠組みを超えてマーケティング全体の戦略や事業戦略そのものを一緒に考えてほしいというご要望をクライアントから頂く事が多く、私達への要求レベルが上がったという実感を持っています。

従来だとこのようなご要望はコンサルティング会社などに依頼されていたと思うのですが、私達もいわゆる“DX”に踏み込んだ支援に関わらせて頂く機会が増えてきましたね。

古嶋:昨今、これだけ「デジタル化」が叫ばれている中だと、自ずと広告施策もデジタル化するニーズが強くなってきていますが、デジタル広告の施策設計や運用改善は非常にテクニカルでノウハウの塊の領域だと、私も経験上強く思います。

いくら大手企業で資金が潤沢とはいえ、経験のないデジタル領域でいきなり高い成果を出すことは難しいでしょうね。だからこそ、このデジタル領域で高い成果を出し続けてきたサイバーエージェントは、デジタル基軸の経営/事業ノウハウをベースとした支援に踏み込んでいけるのかなと思います。ここは非常に説得力がありますね。

CA鈴木:そういった支援に向けて、會澤が局長を務めるデータ維新局やDXコンサルティング本部といった新しい組織を創設して、盛んに活動を推進しています。

インターネット広告事業本部 統括 鈴木 慶司 様

古嶋:具体的にはどのような取り組みが進んでいますか?

CA鈴木:直近だと、よくご依頼頂く内容は4つに整理出来るかなと思います。

1つ目は、「1st Party データの利活用」です。これは、例えば株式会社クレディセゾンと弊社で合弁会社を設立し、クレディセゾンの持つ決済データや1st Party データをいかに有効活用するかに取り組んでいます。この点、私達はコンサルだけでなく実行まで一緒に推進しています。

2つ目は、「トラディショナルメディアからの脱却」ですね。例えば旅行業界だと、未だに紙のカタログやパンフレットを作成して配布していて、これをデジタル化させたい。ただ、そのノウハウやアプローチとして経験がないクライアントからご相談を頂いてますね。

3つ目は、「顧客体験のDX」です。例えば不動産業界では、昨今のコロナ禍でモデルルームという施策の効果が弱まりましたが、三菱地所レジデンス株式会社様の新築分譲マンション「ザ・パークハウス」の仮想空間『SUPER MODEL ROOM』に冨永愛さんのデジタルツインを広告キャスティングに起用する、というメタバースの施策を展開するなどして顧客体験のDXを加速させるという取り組みを行い、不動産業界内で大きな反響を頂きました。

最後の4つ目は、「業務プロセスのDX」です。例えば、人材業界では候補者の応募をいかに早く獲得できるかが重要なKPIなのですが、その初回応募までのリードタイムを短縮化するために、候補者の履歴書を「人の目」でチェックして対応するという従来型のプロセスをデジタル化することにも取り組んでいます。

データを価値に変えるには?データ活用の課題感と打開策

古嶋:もはやデジタル広告の領域を完全に超えてますね。一つずつお伺いしたいのですが、まず1st Party データをマネタイズするという取り組みは多くの企業で検討される一方、さまざまな理由で進みづらいテーマの一つかと思います。

この点、1st Party データにとどまらず、データ活用が進みづらい背景にはどのような理由があると思われますか?

マーケティング事業本部 データ維新局長 會澤 佑介 様

CA會澤:
多くのクライアントを支援する中で共通する課題として、「目標が共有されていない」ことがまず挙げられると思います。

私達は大手企業の取り組みに参画することが多いのですが、大手企業内にはさまざまなステークホルダーが当然ながら存在し、その中で「依頼主」となる担当者と、その他クライアント内の別部署の方々が目標をすり合わせていないままデータ活用を進めようとして、結果として取り組み全体が進まないケースをよく見てきました。

典型的な例としては、データ活用になると情報システム部門ではデータを扱えるようにするために、各種ハードルをクリアしなければならない。その最たるものは個人情報保護やセキュリティの観点ですね。ここはどうしても「守り」に入ってしまう。

一方、マーケティング部門の方々はデータをどんどん活用していきたい。これは「攻め」のスタンスですよね。このような、ややもすれば対立しかねない見解の相違が、データ活用という取り組みでは非常に起こりやすい。なので、関係各所との目標共有と相互理解は、かなり重要だと思います。

CA鈴木:今の話に営業の観点からお話しすると、そもそもデータ活用した結果生まれるサービスやソリューションを「売る力」、すなわち営業力が非常に重要だと、実際の取り組みを通じて強く実感しています。新規サービスを生み出せたとしても、それがどのような価値を持っていて、どのようなアプローチで提案すべきで、どのように顧客の課題を解決できるのかを解像度高く見通せていないと、そもそも売り方も分からないサービスを作ってしまいかねない。

私達はその「売り切る」ところまでご一緒して実行支援していますが、そこまで入り込む背景には、データ活用サービスを売るという経験の有無がボトルネックになっていて、それも含めて解決したいという思いがあります。

古嶋:お二方のご指摘は非常に鋭いですね。DXの領域では“絵に描いた餅”のようなプランニングが提示されたあと、実務が遅々として進まない状況を私自身もよく見かけてきましたが、その根本的な理由として「合意形成の欠如」や「データ活用そのものへの経験値」というのはDX関連の取り組みでボトルネックになりやすい。

それを打破するには、サイバーエージェントのように経営そのものがデジタル起点で成長してきた企業のノウハウを活かすことが、最短経路なのかもしれませんね。

続いて2点目、「トラディショナルメディアからの脱却」というテーマについてはいかがでしょうか?

CA會澤:この点は昨今のSDGsの流れの影響もあるかと思いますが、そもそもの考え方として、カタログやパンフレットを顧客の自宅に郵送するような施策は往々にして「ターゲティング」が非効率になっているように見受けられます。

例えば、そもそも「買うつもり」の顧客にはカタログを送る必要なんて無いはずですし、「買わないつもり」の顧客にも、カタログを送る必要は無い。これは、私達が長きに渡って広告サービスをデータ起点で推進してきた上で培った考え方ですが、このような考え方は決して特殊なアプローチではなく、データをみたら誰でも判断出来るはずなんです。

しかし、トラディショナルなメディア施策を現在も推進しているクライアントでは、多くの場合、このような視点を欠いています。

CA鈴木:會澤の言う通りで、そもそもカタログを送るべきなのかどうかをデータ起点で検証するということがやりきれてない状況を良く見かけます。その根本にある問題点は、しっかりとデータ整備・環境構築が行われていない状況ですね。この「データ整備・環境構築」というデータ活用の初歩とも言える状況が、実はクライアントからの依頼として多い。

CA會澤:私達の広告サービスの実務では、A/Bテストを行い、効果を定量化し、効果が最大化する施策をデータ起点で見極めることを行っていますが、これは私達にとっては当たり前のことなんです。しかし、多くの企業ではそれが当たり前ではない。

CA鈴木:私達の広告サービスでは、そもそも効果を出せないとクライアントの収益を最大化させるというミッションを達成できないので、この点はどのチームも当然のように取り組んでいますね。

古嶋:この点は組織風土も影響していそうですね。カタログのような従来型の施策は長年やり続けてきた実績そのものがボトルネックとなり、デジタル化すると「それによって売上が下がったらどうするのか」という反対意見と衝突しやすい。また、新しい取り組みなので効果が出るかどうかが分からないので、反対意見に押し込まれやすいという構図が少なからずあると思います。(続く)

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部様では、DX人材育成研修の教材に、拙著『DXの実務』(英治出版)を採用頂いています。

DXの実務において、事業推進や施策立案など幅広い用途で役立てていただいております。

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