【DX対談: Full Ver.】広告の枠を超えた、新たな挑戦 株式会社サイバーエージェント様

はじめに

株式会社cross-Xの古嶋です。DX戦略の立案やデータ・AI活用の支援をしています。

2023年4月現在、株式会社サイバーエージェント様のインターネット広告事業本部の皆さまとビジネスでご一緒しています。その中で、サイバーエージェント様のインターネット広告事業本部様がどのように「DX」を推進しているのか、その組織の強さはどこにあるのか、対談形式で迫っていきます。

今回は、 インターネット広告事業本部 営業統括の鈴木様とデータ本部 事業責任者の會澤様と対談をさせていただきました。非常に中身の濃い長編記事となったため、本稿では3つのパートに分けてお届けします。

【Profile】

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
営業統括 鈴木 慶司氏

株式会社サイバーエージェント データ本部
事業責任者 / エグゼクティブコンサルタント
會澤 佑介氏

株式会社cross-X
代表取締役 古嶋 十潤

Part1: 加速するDX支援の現状

「新領域」における支援が加速した1年

古嶋:昨年2022年を振り返って、インターネット広告事業本部としてはどのような1年でしたか?

CA鈴木:これまでのサイバーエージェントは広告代理店として成長を続けてきましたが、その事業のドライバーは広告の効果の最大化で、効果を最大化させるための運用に注力してきました。そこを突き詰めてきたからこそ、デジタル広告業界においてトップクラスのポジションを獲得できたと考えています。ですが、これから私達に求められるのはクライアントの広告効果を最大化させるだけでなく、クライアントの「収益」、つまり経営や事業をいかにして伸ばすことに貢献できるかということだと考えています。最近だと、広告という枠組みを超えてマーケティング全体の戦略や事業戦略そのものを一緒に考えてほしいというご要望をクライアントから頂くことが多く、私達への要求レベルが上がったという実感を持っています。従来だとこのようなご要望はコンサルティング会社などに依頼されていたと思うのですが、私達もいわゆる“DX”に踏み込んだ支援に関わらせて頂く機会が増えてきましたね。

古嶋:昨今、これだけ「デジタル化」が叫ばれている中だと、自ずと広告施策もデジタル化するニーズが強くなってきていますが、デジタル広告の施策設計や運用改善は非常にテクニカルでノウハウの塊の領域だと、私も経験上強く思います。いくら大手企業で資金が潤沢とはいえ、経験の少ないデジタル領域でいきなり高い成果を出すことは難しいでしょうね。だからこそ、このデジタル領域で高い成果を出し続けてきたサイバーエージェントは、デジタル基軸の経営/事業ノウハウをベースとした支援に踏み込んでいけるのかなと思います。ここは非常に説得力がありますね。

CA鈴木:そういった支援に向けて、會澤が責任者を務めるデータ本部などの新しい組織を創設して、盛んに活動を推進しています。

株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部
営業統括 鈴木 慶司氏

古嶋:具体的にはどのような取り組みが進んでいますか?

CA鈴木:直近だと、よくご依頼頂く内容は4つに整理できるかなと思います。
1つ目は、「1st Party データの利活用」です。これは、例えば株式会社クレディセゾンと弊社で合弁会社を設立 し、クレディセゾンの持つ決済データや1st Party データをいかに有効活用するかに取り組んでいます。この点、私達はコンサルだけでなく実行まで一緒に推進しています。

2つ目は、「トラディショナルメディアからの脱却」ですね。例えば旅行業界だと、未だに紙のカタログやパンフレットを作成して配布していて、これをデジタル化させたい。ただ、そのノウハウやアプローチとして経験がないクライアントからご相談を頂いてますね。

3つ目は、「顧客体験のDX」です。例えば不動産業界では、昨今のコロナ禍でモデルルームという施策の効果が弱まりましたが、例えば三菱地所レジデンス株式会社様の新築分譲マンション「ザ・パークハウス」の仮想空間『SUPER MODEL ROOM』に冨永愛さんのデジタルツインを広告キャスティングに起用する、というメタバースの施策 を展開するなどして顧客体験のDXを加速させるという取り組みを行い、不動産業界内で大きな反響を頂きました。

最後の4つ目は、「業務プロセスのDX」です。例えば、人材業界では候補者の応募をいかに早く獲得できるかが重要なKPIなのですが、その初回応募までのリードタイムを短縮化するために、候補者の履歴書を「人の目」でチェックして対応するという従来型のプロセスをデジタル化することにも取り組んでいます。

データを価値に変えるには?データ活用の課題感と打開策

古嶋:もはやデジタル広告の領域を完全に超えてますね。一つずつお伺いしたいのですが、まず1st Party データをマネタイズするという取り組みは多くの企業で検討される一方、さまざまな理由で進みづらいテーマの一つかと思います。この点、1st Party データにとどまらず、データ活用が進みづらい背景にはどのような理由があると思われますか?

株式会社サイバーエージェント データ本部
事業責任者 會澤 佑介氏

CA會澤:多くのクライアントを支援する中で共通する課題として、「目標が共有されていない」ことがまず挙げられると思います。私達は大手企業の取り組みに参画することが多いのですが、大手企業内にはさまざまなステークホルダーが当然ながら存在し、その中で「依頼主」となる担当者と、その他クライアント内の別部署の方々が目標をすり合わせていないままデータ活用を進めようとして、結果として取り組み全体が進まないケースをよく見てきました。

典型的な例としては、データ活用になると情報システム部門ではデータを扱えるようにするために、各種ハードルをクリアしなければならない。その最たるものは個人情報保護やセキュリティの観点ですね。ここはどうしても「守り」に入ってしまう。一方、マーケティング部門の方々はデータをどんどん活用していきたい。これは「攻め」のスタンスですよね。このような、ややもすれば対立しかねない見解の相違が、データ活用という取り組みでは非常に起こりやすい。なので、関係各所との目標共有と相互理解は、かなり重要だと思います。

CA鈴木:今の話に営業の観点からお話しすると、そもそもデータ活用した結果生まれるサービスやソリューションを「売る力」、すなわち営業力が非常に重要だと、実際の取り組みを通じて強く実感しています。新規サービスを生み出せたとしても、それがどのような価値を持っていて、どのようなアプローチで提案すべきで、どのように顧客の課題を解決できるのかを解像度高く見通せていないと、そもそも売り方も分からないサービスを作ってしまいかねない。私達はその「売り切る」ところまでご一緒して実行支援していますが、そこまで入り込む背景には、データ活用サービスを売るという経験の有無がボトルネックになっていて、それも含めて解決したいという思いがあります。

古嶋:お二方のご指摘は非常に鋭いですね。DXの領域では“絵に描いた餅”のようなプランニングが提示されたあと、実務が遅々として進まない状況を私自身もよく見かけてきましたが、その根本的な理由として「合意形成の欠如」や「データ活用そのものへの経験値」というのはDX関連の取り組みでボトルネックになりやすい。それを打破するには、サイバーエージェントのように経営そのものがデジタル起点で成長してきた企業のノウハウを活かすことが、最短経路なのかもしれませんね。

続いて2点目、「トラディショナルメディアからの脱却」というテーマについてはいかがでしょうか?

CA會澤: カタログやパンフレットを顧客の自宅に郵送するような施策は往々にして「ターゲティング」が非効率になっているように見受けられます。例えば、そもそも「買うつもり」の顧客にはカタログを送る必要なんて無いはずですし、「買わないつもり」の顧客にも、カタログを送る必要は無い。これは、私達が長きに渡って広告サービスをデータ起点で推進してきた上で培った考え方ですが、このような考え方は決して特殊なアプローチではなく、データをみたら誰でも判断できるはずなんです。しかし、トラディショナルなメディア施策を現在も推進しているクライアントでは、多くの場合、このような視点を欠いています。

CA鈴木:會澤の言う通りで、そもそもカタログを送るべきなのかどうかをデータ起点で検証するということがやりきれてない状況を良く見かけます。その根本にある問題点は、しっかりとデータ整備・環境構築が行われていない状況ですね。この「データ整備・環境構築」というデータ活用の初歩とも言える状況が、実はクライアントからの依頼として多い。

CA會澤:私達の広告サービスの実務では、A/Bテストを行い、効果を定量化し、効果が最大化する施策をデータ起点で見極めることを行っていますが、これは私達にとっては当たり前のことなんです。しかし、多くの企業ではそれが当たり前ではない。

CA鈴木:私達の広告サービスでは、そもそも効果を出せないとクライアントの収益を最大化させるというミッションを達成できないので、この点はどのチームも当然のように取り組んでいますね。

古嶋:この点は組織風土も影響していそうですね。カタログのような従来型の施策は長年やり続けてきた実績そのものがボトルネックとなり、デジタル化すると「それによって売上が下がったらどうするのか」という反対意見と衝突しやすい。また、新しい取り組みなので効果が出るかどうかが分からないので、反対意見に押し込まれやすいという構図が少なからずあると思います。

Part2: DX成功の鍵とは

DX成功への第一歩は“カルチャー変革”

古嶋:さて、鈴木様がご提示した4つのDX注力領域のうち、3つ目の「顧客体験のDX」は、まさにサイバーエージェントがデジタル起点で取り組み続けてきたところであり、多くのクライアントのデジタル化に貢献しているところかと思います。このあたり、多くの企業で顧客体験のDXが進まない点についてはいかがでしょうか?

CA會澤:この点は、組織のカルチャーを変えることが第一歩なのではないかと日々考えています。例えば、私達の実務ではデータ起点で毎日施策のPDCAを推進していますし、そのためにデータ分析と議論が途切れることなく行われていますが、このような実務の進め方そのものを受け入れられるかが不安だ、という悩みをクライアントからお伺いすることがあります。顧客体験の向上を図る上でデータ活用を推進するとなると実務の進め方が大きく変わるため、ここがボトルネックとなりがちですね。

CA鈴木:例えばセールスの観点で言えば、SFA(Sales Froce Automation: セールス支援システム)に営業担当がデータを日々入力するという作業も、そもそも営業活動が“紙文化”の企業に浸透させるのは非常に難しい。データドリブンで営業をしていくことは、ツールを導入すれば実現できるというものではなく、カルチャーの変革もあわせて推進しなければならないですね。私達にご相談頂けるクライアントの中には、カルチャーそのものの変革をも迫られている、言わば「危機感」のようなものを強く感じている状況も少なくない。

古嶋:お二方のご指摘の通り、DXのような取り組みは結局のところ、それを実現する「組織力」が成否を左右することは、国内で相当浸透してきている考え方かと思います。DX人材育成が声高に叫ばれているのは、まさにこの流れでしょうね。
さて、4つ目のテーマである「業務プロセスのDX化」についてはいかがでしょうか?

CA鈴木:例えば人材業界のエージェント業、飲食メディア等のクライアントからの要望として挙がってくるのですが、「採用業務のデジタル化」へのニーズは高い様子が伺えます。採用が成功するパターンとして、初回応募や初回接触を獲得した場合が最も可能性が高いと言われていて、各社は優秀な転職者といかに早く接触するかが重要だと考えています。

一方で、履歴書や職務経歴書を読み込んで接触可否を判断するという実務は、担当者が時間をかけて行っているのが通常ですが、これはもっと自動化していけると私達は考えています。当然、個人情報保護の観点など、データの扱いには最大限の注意を払わなければなりませんが、クライアントのビジネスにとって相性の良い候補者を見抜くための「目利き」や、その後の「面談を設定する」という作業は、ある程度自動化が可能だと思います。現状、ここでの工数はクライアントの中で未だに大きく、課題感が大きいように見受けられます。このソリューション部分については、會澤のチームと連携して提案を設計しています。

CA會澤:こういったソリューション以外でも当てはまる考え方だと思いますが、DXを推進する上では「しきい値」と「仕組み」をいかに設定するかが非常に重要だと思います。属人的な業務をツールやシステムで自動化するには、どの程度の値を超えたら良いかを判断するためのしきい値の設定だけでなく、その後の業務をどのようにパターン化して効率を高めていくかという仕組みづくりが不可欠です。クライアントの実務を見ていると、もっと自動化してオペレーティブになる世界がありそうだと考えています。そういったところにまで、支援を広げていきたいなと。

古嶋:…もはや取り組みの幅も深さもインターネット広告の枠組みを大きく超えていますね。

サイバーエージェントの組織は、なぜ成長し続けられるのか?

古嶋:このような新しい取り組みに対して、非常に熱量高く議論されていらっしゃいますが、なぜこのような新しい領域/テーマに対して、自ずと一丸となって取り組めるのでしょうか?

CA鈴木:組織的な観点だと、業種業界ごとに責任者や担当者を配置して、各自がクライアントの課題解決にフルコミットできる環境を整備しています。各業界の課題やトレンドを常にキャッチアップして、私達の提供価値を高めていくことに惜しみなく時間を割いています。特にデータ活用やDXの領域はトレンドや課題の変化が著しいと日々実感しているので、このような取り組みを組織的に推進することは非常に重要だと考えています。

CA會澤:さらに言えば、冒頭に話した「効果の最大化」という意識と行動が組織全体に浸透していることが非常に大きいと思います。インターネット広告を軸に成長していた段階では、クライアントの広告効果を最大化させることが“一丁目一番地”でしたが、現在はクライアントからの要望に応えるためには収益そのものの最大化を実現しなければならない。そのためにはクライアントの経営そのものに踏み込む必要があるんですよね。そうなると、もはやインターネット広告にサービスを閉じていては価値を最大化させられない。

例えば、クライアントのマーケティング活動にまで踏み込んでみた際によくある状況として、ターゲティングそのものがアナログに行われていることがよくあります。顧客を「20代、女性、購入品目」みたいな軸で検証したあと、「この観点なら、こういう商品を買うのではないか?」という考察の時点で、属人的な“推察”になってしまっている。そうではなく、その推察やターゲット決定のステップも含めて、データを使って決めていくことが重要です。こういった「思考の逆転」とも呼べる変化を、クライアントの中で起こしたい。

古嶋:クライアントのリテラシーを高めるところにまで貢献していきたい、ということですね。

CA會澤:そうです。さらに言えば、私達が構築するソリューションを導入することで、クライアントの実務が大きく簡易化されるような世界観を作っていきたいと考えています。例えば、予測モデルやオペレーションは私達が設計するので、クライアント側ではこれだけやって頂ければ良い、と。

CA鈴木:営業観点で言えば、先程話したようにクライアントの課題は日々変わり続けているので、私達が提供するサービスはマーケット環境やクライアントの状況に合わせて作らなければならない。そうでなければ、クライアントの「収益の最大化」は実現できませんからね。

もちろん私達の目線だと、売りやすい商品設計をして多くのクライアントに届ける方が私達自身の売上は高まりやすいのですが、そういう発想だと新しい価値を生み出す原動力そのものが無くなりますし、何よりクライアントへの貢献ができない。このあたりのバランスが重要だと考えています。

高い熱量を生み出す「合宿」と「目標の自己決定」

古嶋:サイバーエージェントの皆様と関わる中でいつも驚かされているのは、お二方が仰っていることを具現化するために、全員といっても過言でないほどの方々が高い熱量で新しい取り組みにチャレンジしているご様子なんですよね。

例えば、皆様の会話を聞いててよく耳にする「合宿」という言葉ですが、長時間の会議をメンバーが自ら起案して、積極的に関係者が“自分から巻き込まれに行く”様子を目にしています。先日、私も参加させていただきましたが、最初から最後まで徹底して「いかにしてクライアントの収益を最大化させるか」について議論されている様子に改めて驚かされました。このような高いモチベーションは、どこから生まれるのでしょうか?

CA會澤:確かに“合宿文化”ってありますよね(笑)。でもそれがなぜあるのか、と改めて考えてみると、サイバーエージェントは「コンセンサス」を取るのが上手い会社なのかなと思います。合宿では古嶋さんが言った「収益の最大化」に関する議論ももちろんあるのですが、加えて各メンバーの「目標設定」も行います。私達は、目標設定を全てボトムアップで行う、言わば自己決定型の経営なので。トップダウンで目標が決まるわけではないんですよ。

CA鈴木:採用でもその一因があると思います。私達が採用の際に見ているのは、「マーケット志向や顧客志向の強さ」であり、言い換えれば「外向きの志向性」の強さなんですよね。自分自身の成長に重きを置いている方は、サイバーエージェントにはフィットしない。常にクライアントのため、ひいては組織、メンバーのために動ける方でないと、一緒に仕事を進められないと思います。採用計画そのものも、ボトムアップで決めています。その際、当然P/Lとしっかり連動しているかどうかはチェックされますけどね。

ちなみに私や會澤のような統括、事業責任者クラスでも目標設計は自己決定です。当然、経営から求められる成長率はありますが、しっかりとしたロジックがあるのなら、それを下回る目標設計であっても認められます。

古嶋:驚きました。この規模の経営で、目標をボトムアップで構築しているなんて私はほとんど聞いたことが無いです。しかもその中で常に高い成長を実現している点は、多くの企業にとって参考とすべき示唆が多い気がします。このあたりは、皆様のモチベーションの高さの一因でしょうね。

今後の展望

古嶋:大きな変化やチャレンジを生み出した2022年だったかと思いますが、今年2023年は、どのようなことを実現していきたいとお考えでしょうか?

CA鈴木:2022年を通じて、各業界の課題が広く深く捉えられたので、それらに対応するソリューションを増やしていきたいと考えています。さらに、それらを提供するために、私達が各クライアントにパートナーとして認めて頂けるよう、常に高いレベルの価値を追求していきたいですね。例えば不動産領域だとメタバース空間でのソリューションを開発するなどしてきましたが、このような業界課題を解決するソリューションそのものの認知を高めていきたいですし、収益の最大化を実現した、という実績を次々と生み出していきたい。

例えば、1st Partyデータ活用の観点では、冒頭お話したクレディセゾンとの取り組みだけでなく、ANA X社との取り組みでANAグループの持つ航空利用データや、約3,700万人のANAマイレージクラブの会員データなどを基に独自の広告配信システムを開発するなどの取り組みを進めています。

私達としては、収益の最大化を実現するまでの役割を全て担えるパートナーになっていきたいと強く思っています。プランだけ描き、実行にコミットしないような組織には、なりたくないですね。また、私達のサービスを求めてクライアントからの依頼がこれから増えていくことを想定していますが、多くのご要望に対応できるだけの組織力強化や仕組みの設計にも注力していきたい。

古嶋:DXに関するサービスを提供する企業はコンサルティング会社を筆頭に多数存在しますが、サイバーエージェントのように確固たる実績を引っさげて支援に参画している企業は、非常に稀有だと思います。今年のさらなる躍進が楽しみです。ありがとうございました。

Part3: 「データ本部」が実現するDXとは?

DXの「第一歩」を実現するために

古嶋:會澤さんが立ち上げられたデータ本部の2022年の活動を振り返るとどのような一年だったでしょうか?

CA會澤:「基礎固め」を徹底した一年間だったと思います。私達の開発力そのものは、例えばAI研究・活用ランキングで世界49位、国内で4位という評価を頂いている一方、クライアントを支援する際にこのようなケイパビリティをそのまま活用できるわけではないことに苦心しました。

私達の中では、各業界ごとにデータ活用レベルを5段階で定義し、クライアントごとにどのレベルに位置するのか評価させて頂いて、具体的な支援に着手するというサービス設計を既に完了させています。しかし、多くのクライアントでは、データ活用をまさにこれから始めるという段階で、データをいかにして作り出し、蓄積していくかという最初の第一歩をクリアしていく必要があります。言わばデータベース設計に踏み込んでいくことが求められるケースが多い。

さらに、この最初の第一歩をクリアするためには、先程話した「組織的な壁」が存在していて、なかなか取り組みをすすめることができない。なので、データベースの設計や組織的な方向性定義といった「基礎固め」に多くの時間を、この1年間では費やすことになりました。

古嶋:最初の第一歩を踏み出そうとすると多くのボトルネックがありますよね。情報セキュリティの問題、ITシステムのモダナイズ、データ活用そのものへの経験/知見、さらには組織的な目標設定と合意形成など、枚挙にいとまがない。一方で、変革をせざるを得ないという危機感も、国内全体で醸成されている気配もありますよね。

CA鈴木:2022年の年初と年末だと、その危機感の度合いが全然違いましたね。現在はデータ活用の依頼についてクライアント側から与件を頂いたりすることも珍しくない。DX関連の組織を新設したクライアントも多く、今年はいよいよデータ活用が本格化し始める気配を感じています。その際も、その瞬間、クライアントにとって必要なソリューションを會澤のチームと連携して開発し、提供していくことが重要だと考えています。

CA會澤:今後増加していくご要望に対応するためにも、まずはクライアントのデータベースを整備し、収益の可視化や貢献度の高いドライバーを特定し、モニタリングするというソリューションと仕組みを着実に開発していく必要があると思っています。さらにそれらを、収益の最大化を実現するために各業界の課題に合わせて作り込んでいきますが、こういった取り組みには既に先行着手しています。

アイデア起点でのプロダクトが成果に結実

CA鈴木:ここまで話したようなクライアントの課題起点でのソリューション以外にも、私達は言わば「プロダクト起点」でソリューションを創出することも積極的に推進しています。例えば、グループ会社のCyberHuman Productions では「技術(Cyber)」と「人間(Human)」の融合を目指すクリエイター集団が在籍し、AIとCGを駆使したソリューションを日々開発しています。また、メタバース空間におけるバーチャル建築物や空間デザインの研究・企画・制作を行う「Metaverse Architecture Lab(メタバースアーキテクチャラボ)」では建築家の隈研吾氏に顧問として就任頂き、よりよいプロダクト開発を実現できる環境整備に向けて投資しています。そういった言わば先行投資的なプロダクト開発の結果、クライアントのニーズに合致したサービスも多数存在しています。

古嶋:おもしろいですね。プロダクト軸、言い換えれば「シーズ起点」のサービス開発は、往々にして失敗するケースをよく見かけてきましたが、サイバーエージェント様の場合は課題を熟知しているという組織力そのものが、投資の目利きに大きく寄与していそうですね。

CA會澤:リテールメディアへの取り組みにおいても、過去に弊社が開発していたDSP(Demand Side Platform: 広告配信システムの一つ)の技術を小売に応用したものです。

様々な技術やソリューションを開発し、それをしっかりと社会実装に繋げていくことに、私たちは長けているのかもしれません。

CA鈴木:このようなアイデア起点、プロダクト起点のサービス創出は、多くのクライアントの課題と向き合って収益の最大化に尽力してきたからこそだと思います。

古嶋:まさにそう言える成果ですね。この点、データ本部としての強みは、會澤様の視点からだとどのようなところにあると思われますか?

CA會澤:繰り返しですが、私達のミッションはクライアントの収益の最大化で、それを組織全員がコミットして実現しようとしていることに尽きると思います。一般的にはデータサイエンティストやアナリストは、分析といった部分業務の対応だけに留まることが多いのですが、我々は収益を最大化するために収益構造の理解、分析、課題・機会発見、施策立案、実装まで全て対応します。

そういう意味だと、分析・施策立案・実装全てを支援するデータ人材は他社にはなかなかいないのではないか、と思います。サイバーエージェントは、分析屋に留まらず、収益を最大化できるまで支援できるデータ人材を輩出していきたいと考えています。

CA鈴木:會澤のコメントを聞きながら気づいたんですけど、営業メンバーとデータサイエンティストが議論している際、営業側が「それって効果出るんですか?」といつも問いかけてますね。これって普通は違うはずで、営業目線だと「それって売れるソリューションなんですか?」みたいに、自分自身の売上に意識が働くと思うんですけど、そういった質問は聞かないですね。いつも「効果出ますか?」という議論に終始してますね。

CA會澤:自己満足的な分析は、はっきり言ってどうでもいい。営業側から「これだと顧客に伝わらない」という指摘があった際は、しっかり修正対応して再提示していますね。

サイバーエージェントの組織は、なぜ「心理的安全性」が高いのか?

古嶋:皆さんにとっては当たり前の議論なのかもしれませんが、おそらく一般的な企業では、「効果出せるの?」みたいな質問って非常にしづらいと思います。そこにコミットするのって相当な覚悟が必要ですし、険悪なムードにすらなりかねませんからね(笑)。

でもそのコミュニケーションを躊躇せずできるのは、サイバーエージェントの皆さんの「心理的安全性の高さ」があるからなのではないかと思います。他社の人事の方が皆さんの議論の様子を見ると、きっと驚くのではないかなと。

CA鈴木:あまりそういったことを意識することは無いのですが、おそらく一つの要員として、サイバーエージェントのMission Statementにも掲げている「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを 」という文化があると思います。私達は“ミス”に対して非常に寛容です。もちろんミスをする前にしっかりと根拠を持った仕事の進め方をしていることが前提ですが、サイバーエージェントではミスをしたメンバーでも昇格することもありますし、グループ会社の社長に就任することもある。

恐らくですが、「ミスが恐い」と考えながら仕事をしているメンバーはほとんどいないのではと思います。というより、そもそも「ミスしたい」と思いながら仕事しているメンバーなんていないですけどね(笑)。

古嶋:皆さんと接している中で、そのような仕事へのスタンスは強く伝わってきます。多くの企業では大小問わずミスを恐れて踏み出せない状況がたくさんありますし、そのような様子をたくさん見てきましたが、サイバーエージェントの皆さんからそのような雰囲気や言動を感じ取ったことは、私自身一度も無いですね。

CA會澤:このMission Statementは昔からありますが、一方でそれを「意識」したことは、私自身はないですね。読み返すこともあまりしていない。ですが、自然と組織全体がそのような姿勢で仕事をしていますね。古嶋さんから指摘されなければ気づかなかったぐらいです。

古嶋:無意識のうちに実践しているという、理想的な状態ですね。その「挑戦した敗者にはセカンドチャンスを。」という文化の他に、皆さんの心理的安全性を高めている要因として、思い当たることってありますか?

CA鈴木:そうですね…。恐らくですけど、良い意味でみんな「答えを持ってない」まま議論できているから、ではないかなと。答えを出してしまうようなメンバーがいると、どうしてもそっちに引っ張られる。でも、クライアントの課題が何であっても、その解決策やアプローチって、効果が出るなら何をしても自由ですからね。私達が挑んでいるマーケットには、絶対的な答えが無い。だから、とにかく議論しなければならないんですよね。

古嶋:非常に示唆にあふれた見解ですね。確かに皆さんと議論をしていると、答えのないテーマにばかり取り組んでいる印象を強く受けます。逆に言えば、新しいことにチャレンジしない組織は、結果として心理的安全性が低くなる、とも言えるかもしれませんね。

CA會澤:そうかもしれませんね。私達の場合、役職関係なくとにかく「収益を最大化」させるために皆懸命になって議論しているので、無意識のうちに心理的安全性が高い状態になっている、とも言えるでしょうね。

今後の展望

古嶋:ありがとうございます。非常に興味深い話ばかりでした。データ本部として2023年はどのような年にしていきたいですか?

CA會澤:まずは、データ活用をこれから本格的に始めていくというクライアントに対して、データ取得から可視化に至るプロセスのサービス化をしっかりとやり切るところからだと思います。そこに、「サイバーエージェントらしさ」をいかにして付加していくかが課題ですね。もちろん、弊社側ではより高度なソリューションを開発していくためのバージョンアップを推進していきます。クライアントのデータ活用が進んだ際、速やかにより高度なデータ活用にステップアップするために、周到に準備を進めていこうと考えています。ですので、データベース構築さえクライアント側で完了してしまえば、次々とデータ活用施策を実装できるような状態になっていけると良いかなと。

CA鈴木:営業側でクライアントと議論していると、目まぐるしく課題が変わっていくので、その変化をタイムリーに會澤のチームに連携していくことが重要だと考えています。そのような「フットワークの軽さ」は私達の大きな強みだと思うので、データ本部と連携しながら効果の出せるソリューションを次々と生み出していきたいですね。

株式会社cross-Xについて

古嶋:ありがとうございました。最後に、昨年夏ごろから弊社cross-Xとしてサイバーエージェントの取り組みに参画させて頂いておりますが、弊社に対する率直なご意見やご感想を頂けると嬉しいです。

CA鈴木:率直に言って、非常にありがたいと思っています。私達だけだと、クライアントの課題を考察しているとすぐにソリューションに落としがちになるのですが、古嶋さんが入るとその課題をもっと広げてくれたり、各課題に対して多くのアプローチを提示してくれるので、私達が提案できるソリューションの幅を広げることができています。メンバーに対して多くの「選択肢」が提供できているイメージですね。古嶋さんがDXに詳しい“だけ”だと、ここまでご一緒できなかったと思いますが、マーケティングの実務やサイバーエージェント自体についてもある程度ご理解されていて、そのうえで踏み込んだ議論を一緒にして頂けてますよね。

CA會澤:古嶋さんの書籍『DXの実務』(英治出版)を用いた研修を弊社で実施頂いてますが、その書籍の内容もそうですけど、「言語化」と「フレームワーク化」にすごく長けていますよね。一緒に議論していると「あ、その視点から考えていくのか」という気付きがあって、上流プロセスから現場実務に至るまで視座が変わる実感があります。

CA鈴木:そうそう、「幅」と「深さ」が一気に出てくる感覚ですよね。

CA會澤:視点を広げたあと、それをさらに体系立てて最初から最後までフレーム化してくれるところは、かなり助かっています。私達の組織は、フレームに落としたあとの組織への浸透が非常に速いので、そのあたりも相性が良いのかもしれないですね。

CA鈴木:クライアントとの議論や社内での議論でも、「これ、古嶋さんの話で出てたポイントだね」と気づくことが多いですよね。かなり勉強になっているかなと。

古嶋:…嬉しい言葉の数々で、恐縮至極です(笑)。本日はご多忙な中、長時間にわたりお話し頂き、ありがとうございました。引き続き宜しくお願いいたします。



株式会社サイバーエージェント インターネット広告事業本部様では、DX人材育成研修の教材に、拙著『DXの実務』(英治出版)を採用頂いています。

DXの実務において、事業推進や施策立案など幅広い用途で役立てていただいております。

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DX組織・人材育成

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