なぜ、AIを活用するための組織とITシステムでは課題が噴出するのか

ダイヤモンド・オンラインで連載第7回目が公開されました。

今回のテーマは「AI活用に向けたデータ基盤の構築」についてです。

データ活用の議論になると、ITシステムにおける「攻め」と「守り」の考え方が対立する様子をよく見かけます。

例えば、事業開発やマーケティングなど、数値責任を持って主体的に成果創出を目指す組織では、データは活用したい資産であり、そのために必要なシステム開発を推進したい。

一方、セキュリティ保護やシステムエラー防止を担う情報システム部や開発チームは、システム変更による影響範囲を見積もったり、機能実装に必要なデータの活用に伴う個人情報保護の対応など、新しい取り組みは慎重に進めたい。

こういった牽制関係は組織において重要である一方、バランスが崩れると、「攻め」が強すぎれば事業リスクの増大、「守り」が強すぎれば開発全体の停滞を生むなど、大きな弊害を生んでしまいます。

この点、AIにおけるデータ基盤は、その内部に「攻め」と「守り」の概念が同居するようなシステムです。

データサイエンティストや機械学習エンジニアとしては、新しい予測モデルを開発したり、モデルを再学習後速やかにデプロイしたり、新しい特徴量を作り出してそれを試したりと、実験的に素早く実務を進めたい。

専門的に言えば、速いイテレーションで試行錯誤して実務を進めたい、ということですが、その内容や変更履歴を記録保存したり、他者が読みやすかったり再利用しやすいようなコーディングは、やや優先度が下がる傾向にあります。

一方、データ基盤やフロントエンドなどを担当するエンジニアは、データの形式変更や新しいバージョンのモデル実装によってITシステム全体にどのような影響があるかを慎重に検討したい。

特に、予測モデルが実装された後、システム全体が壊れることなく安定的に稼働して期待どおりの成果を発揮するように、システム全体を制御することの優先度が高い傾向にあります。

他にも数多くの考察ポイントがありますが、重要なのは、

「従来型のITシステムの考え方と、AIやデータ分析を含めたITシステムの考え方は、かなり異なるものと考えた方が良い」

ということです。

この点、開発側に依頼する事業側・経営側が、このような状況を理解しない、もしくは知らないまま計画を提示、管理していると、開発側の実務推進上のストレスは更に高まります。

DXには多様な組織や人材が求められる、とよく言われます。ただ、多様な人材が集まったとしても、組織間やメンバー間で上記のような状況に陥っていると、逆効果です。

一方、相互理解が組織間、メンバー間で形成されたとしても、役割の異なる相手が「どのような実務をしているか」が分からなければ、先述したような問題は解決しないと思います。

DXの実務では想定外の問題がつきものですが、その内容がITやAIなどの専門的な内容だとしても、その内容をある程度理解しておかないと、何かが起きたときに手の打ちようがないことになってしまいます。

分からない問題は、解決できませんからね。

また、データやAIを活用すると、多くの関係者が多様なタスクを同時並行で進めることになります。

そこでは、個々のタスクについて専門スキルを持った人材を適材適所で配置し、実務を推進していくことになります。

この点、一見すると効率的なように見えますが、実はそうではないケースが多い。

よく見かけるのは、「そこは違う部署のあの人が担当だから、自分は知らない」といったスタンスです。

このような意識と役割分担は、効率的なように見えて、実は活動を妨げることになりがちです。

専門化が進むほど実務はブラックボックスになりがちですが、DXは「個々の活動を繋ぎ合わせて成果を出すもの」なので、個々の実務が分からないままだと成果を出すことは難しいと思います。

重要なのは、ミッションや立ち位置の異なるメンバー間で双方の考え方を理解するだけでなく、相手の実務や専門的な内容に少しでも踏み込んで理解することです。

この点、昨今よく言われる「リスキリング」は、その定義も意味合いもさまざまなようですが、

「他のメンバーの実務を理解するための技術的リテラシーを高め、チームワークをより高度なレベルで発揮するためのものだ」

という側面もある気がします。

上記のような点で悩む方々にとって少しでも役に立てばと、今回の記事を書きました。

よろしければぜひ御覧ください。